あなたの子どもをアダルト・チルドレンにしないために

アダルト・チルドレン(Adult Children:以下AC)とは、幼少期に家庭内で深い傷付き体験をした子どもたちが大人になった人のことを指す。

よく「大人のような子ども」と誤解されがちだが、ACは「幼少期大人たちの外圧によって、子どもらしい生き方を阻害されてしまった子ども」といえるだろう。

アルコールや薬物に問題を抱える親のもとで育つと、子どもは様々な葛藤の中で生きることとなる。「親が急に怒り出す」、「家庭をかえりみない」、「家族の約束などを守らない」など親中心の生活に振り回されてしまう。たとえその原因が親にあったとしても子どもはそれをなかなか主張することができず、「自分が悪いから」と問題を自分のせいにしてしまう。

たとえトラウマ(心的外傷)のような体験を親から受けたとしても、それを「親のせい」することができず「自分が悪いから」と結論付けてしまうのがACの特徴でもある。

つまり、自分自身の感情を素直に感じる力が、環境によって十分に育たなくなってしまったのだ。

素直に育つことができなかった子どもたちは、周りからすると一見「とても適応している子ども」に見えたり、「素行の悪い不良」だったり、「優等生」だったりする。

家庭内で起こる様々な問題をまるでなかったかのような振る舞いで、大人たちの目を回避したり、反対に集めたりもする。ACは、不遇とも言われる家庭環境で育った人が多く、自分のことよりも周り中心の生活を送る中で自分の能力を十分に出しきれなかった人が多い。

また、ACは恋人やパートナーを選ぶ際に「問題を抱えている人」を選ぶ傾向もある。自分の生きる環境に問題があったほう安心しやすく、そもそも「私には問題がある人が合っている」や「私がしっかりしなきゃこの人はダメになってしまう」など、自己肯定感の低い人が多いもの確かだ。

浮気や暴力、ギャンブルをはじめ、一般の人が避けるであろうと思われる相手を無意識の内に探してしまう。

呪縛から解放されるためには、過去は変えられないことを受け入れることが大切。
また、世代間の負の連鎖を止めるためにも、自分の育ってきた環境自分がこれから作っていく環境は違うのだということを意識することが生きやすさを作り出す。

自分がされたこと、どうにもできなかったこと、本当はこう思っていたことなど心の中を整理し、新しい考え方やこれからの生き方に目を向けることが回復につながる。

過去大変だった自分を十分愛してあげることが、自分の子どもをアダルト・チルドレンにしないための第一歩なのだろう。




身近に起きうる性被害とトラウマ・ケアを男性はあまり知らない。

ここ最近になって男性の性被害にも焦点が当てられるようになってきましたが、やはり圧倒的に多いのが女性に対する性被害。加害者は、それほど深刻に思っていなかったとしても被害を受けた当人はとても苦しい思いをする。軽傷だったから問題ない、未遂だったから大丈夫という問題では済まされない。被害者が感じる心理的負担やトラウマ・ケアの実際とはどういうものか。


記憶は色褪せない


「もう過去のことでしょ。過ぎ去ってしまったことを今さらそんなに考えても仕方ないよ。あなたにも非があったんじゃないの。いつまで引きずってるのさ。」
被害者へのこのような声掛けがさらなる二次被害を生み出してしまう。セカンドレイプはこうやって繰り返されてしまう。被害者であるにも関わらず、周りから心無い声掛けを浴びせられるとそれだけで心が消耗する。警察等での取り調べでは、事の詳細や何をどのようにどうされたかなどを根掘り葉掘り聞かれる。ただでさえ性被害に合い苦しい思いをしているのに、加えて辛い体験を語らなければいけない。
被害にあった記憶は脳に刻み込まれ、自分の中に落とし込む作業は、一体どれくらいの時間がかかることなのだろうか。もしも自分に・・・と想像するとそれは一生抱える辛い経験になるだろう。

トラウマが軽んじられている!?

少しきつい言い方をするが、トラウマという言葉が日常に定着しすぎていることに違和感を感じてしまう。
もちろん悲惨な恋愛はあるだろうが、恋愛においてよく出される「前の恋愛はマジトラウマだった。」というような経験は本来のトラウマ経験とは異なる。たとえ悲惨な恋愛だったとしても、それは時間が解決したり、癒してくれる部分があるのが思い出のいいところ。
しかし、トラウマはそうはいかない。
あの時の感情が鮮明に色褪せず、言葉にならない感情と苦しさでどうしようもなくなる。自分の中だけでは収められない感情は、多くの症状としてあらわれたり、時には行動化してしまうこともある。
虐待や被災、人災などの命に関わる体験が身近にあった場合などは、それがきっかけとなることも多い。
きっと日常会話では、自分の体験がいかに大変だったかを説明する役割として「トラウマ」という言葉が定着しつつあるのだろう。



被害にあった時に現れる3つのF

トラウマ・ケアの専門書にはよく出てくる有名なFをご紹介

①Fight(戦う)
被害にあったことに対して立ち向かうこと。
恐怖心やトラウマ体験と向き合うとてもエネルギーが必要となる作業。
被害体験と戦い、一生懸命乗り越えようとする。
生きていく、生き抜くために受け入れ性被害等に立ち向かうこと。
つまりはサバイバー。
しかし、誰しもそれを乗り越えられるわけではなく、戦いに終わりは無い。

②Flight(逃げる)
嫌な感情から逃げる作業。
整理できない耐え切れない感情から逃げることで生きていく。
周りの人間との接触を極力避け、感情を鈍麻させ生き延びようとする。
なんとか生きるための行動。
逃げていいんです。なにも悪いことではない。

③Freeze(固まる)
被害にあった否定的な感情が生き方全体に影響し、どうしていいか分からず固まってしまうこと。否定的な感情は、自分自身をこれまで以上に蝕み、自暴自棄な感情に包まれたり、自分を大切にできなくなってしまう。
整理できない感情は、時として身体症状に現れあなたやあなたの周りさえも傷付けてしまう。
身動きがとれなくなり、傷つき体験をさらに重ねてしまうこともある。
動けなくなることは辛いこと。時計の針が止まってしまったように苦しい。

回復の為には

安全で語れる場を持ちましょう。
抱えきれない思いは、ひとりではどうにもできません。
安心感や安全な場所でゆっくりと語るためには、受容的な人に話を聞いてもらうのもいいでしょう。(ただし辛さにつけ込む人の判別は必要です。)
でも、語ったからといってすぐに回復できるものでもありません。時間をかけてそのトラウマと向き合うことになるでしょうから、焦らず気楽に向き合う気持ちも持っておきましょう。
過去の辛い経験を語る上で「今、ここで」の感情を忘れないことが重要。
過去と今をしっかりと分けて考えながら「今語っているのは過去のことだ」ということを客観的に抱えておく作業が必要になってきます。

辛い気持ちには、名前をつけたりしながら程よい適切な距離感を保つことが大切。

今を生き抜くために、何かに依存してしまうリスクも考えながらトラウマとは上手く棲み分けを行っていかないとその渦にすぐ飲み込まれてしまう。

考え方をすぐに変える必要はない。
そんな簡単に考え方など変わるものではないから。

ゆっくりと感情を出す作業を繰り返し、危なくなる「サイン」に気付くことさえできれば、そこに対処法を差し込む隙ができる。
トラウマ感情に気付いたり、自分の感情や行動を「調整」したりしていくことが回復につながる。

トラウマ経験だってあなたの人生の一部であり、大切にしていかないといけないもの。ただ、あまりに大きいと抱えていられないので小さく小さく折り畳み、ポケットに収まるサイズにしていくことこそが、トラウマと上手く付き合うことなのかもしれない。