スリップと聞いて最初に頭に浮かぶのは車の運転ではないでしょうか。
道路が凍結した日などに危ない思いをした人も多いはず。
しかし今日扱うのは依存症者のスリップのお話。
再飲酒・再使用・過去の自分に逆戻り
スリップとは、まさに一時的なつまずきなのです。
そして、依存症患者においては、この一時的な失敗体験は割とよくあることでもあります。本人の心の中には「失敗しないように自分の依存問題を克服していきたい思い」と「まだその依存問題に浸っていたい思い」が混在しています。いわゆる、アンビバレント(両価性)な感情が渦巻いています。まさにその通りで、やめようと思ってやめられるなら病気にもならない訳ですし、わざわざ失敗していく人はいません。この様な心の微妙な動きを理解してくれない人が周りにいると当事者はさらに辛い思いをして孤立してしまうでしょう。
「なんでもっと頑張らないんだ。」
「意志が弱いからだ。強くなれ。」
・・・良かれと思って言っていることでしょうが、完全に悪い対応をしてしまっていますね。
依存症者にとってスリップは当たり前のように訪れることを知識として頭に入れておく必要があります。
じゃあ失敗してもほっとけってこと?怒
半分正解ですね。
援助者はいちいち失敗を問い詰める必要はないでしょう。失敗してしまったことは本人が一番よくわかっているはず。怒ったところで問題が解決するなら怒ればいいのですが、依存症はそんな簡単に解決しません。
しかし、じゃあ完全に放置すればいいかと言われるとそうでもないのが依存問題の難しいところ。彼ら彼女らを孤立させてしまうと問題が悪化してしまうのも事実。周囲の人間が巻き込まれないように関わっていくことが大切。本人には治療に結びついてくれるよう促しながらも、孤立させないよう工夫していく必要があります。
「家族の対応が悪いのでは」と気に悩むことはありません。依存症とはそういう病気です。家族や周囲が感じる怒りやもどかしさなどのモヤモヤを、責める方向に使うのではなく、より治療に結び付けることが回復の一助になると言われています。
スリップはチャンスなのか
まさにその通り。周りに依存症問題を抱える人が失敗を語ったときは、語れたことを褒めてあげましょう。失敗したことを正直に話せることが一番大事。鉄は熱いうちに叩けと言われますが、依存症者にとって熱くなっているのがこの瞬間でしょう。
ただし説教は厳禁。
本人が依存性問題に直面するこの瞬間を大切にしてあげる。
できればスリップした誘引や今後の対策について話し合えればなおさらOK
失敗を安全に話せる自助グループにつなげられるなら、その人はきっともう回復の道のりを歩き出していることでしょう。
大切なのは孤立させないこと。
もし違法薬物を使っていたとしても通報するよりは治療に結び付けてあげるほうが有意義な時間を過ごせるはず。
それほどまでに依存症のスリップ体験は多くのものを失ってしまう。